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桜庭一樹「ファミリーポートレイト」について
桜庭一樹「ファミリーポートレイト」(講談社'08)

 ノベライズやライトノベルの世界で評価され、一般向け作品を発表し始めるやいなや、直木賞へと至る階段を駆け上った桜庭さん。本書は受賞後に三ヶ月もの時間をかけて書き下ろし刊行した原稿用紙千枚にも及ぶ長編作品。『赤朽葉家の伝説』『私の男』に本書を加え、「血の繋がり」テーマの三部作といっても良さそうで、どことなくモチーフ(というか表現しようとしたもの)が共通しているようにみえる。

 家族、というか母と娘という血の繋がりを拠り所にした結果、自分自身の居場所、存在意義を求めて彷徨う女性・鈴木駒子の一代記。駒子は、自我を記憶する五歳くらいから、何年かおきに居所を変えて生活していた。コーエイと呼ばれる集合住宅、老人ばかりが住む山村の病院、港町の温泉街、豚の飼育と屠殺の街、すり鉢状になった元有名人たちがひっそりと生きる街、そして英国庭園の隠遁者役として。母親の眞子は自称女優。テレビにも出たことがあるといい、二十歳で駒子を産み、その駒子に対する虐待と溺愛を繰り返し、自らは温泉芸者や屠殺所の仕事や、社長の愛人など逞しく生計を立てていた。一方で眞子は戸籍のない駒子を学校へはやらなかったので、字が読めるようになってからの駒子は、各地の図書館で大量の本を読み続けて自らの血肉としていた。ただ、過去に眞子は何かの事件に関係したらしく探偵や警察が彼女たちを追って、最後には必ず親子のすぐ近くにまで現れる。その気配を察知するごとに眞子は、駒子の意志を確認したうえで各駅停車に乗って以前の住居を捨てて新たな場所へと旅立つのだ。(ただ一回を除いて。) 第一部では親と子供のファミリーポートレイトが。そして第二部以降では、名字を変え、一人となった駒子の青春、そして孤独で独特の生き方をとる彼女のセルフポートレイトが、その感性と共に描写される……。

日本版狼少女。偏った愛と様々な経験、物語への耽溺を経て身体は大人に、母親依存以外は気高い精神が美しい
 前半部の彷徨譚が圧巻。
 口を利かない五歳の少女が、圧倒的な母親の存在感に抱かれながら、その関係性に縋って生きてゆく。少しずつ成長しながら、美しかった母親はそれと同時に少しずつ苦労を重ねて年を取り、成長した娘を愛する一方で疎ましくも思うあたりが人間的で、神を崇めんばかりに母親に向かう主人公と考え方の対比を為す。彼女らが潜む環境がまた特殊であり、それぞれがいわゆる「冷たい都会」とは異なるかたちで、来歴不詳の二人を受け入れる背景を形作っている。このそれぞれの街、村の圧倒的な存在感もまた、この作品全体が醸す迫力をサポートしている。
 第一部は、どちらかというと「鈴木駒子が出来るまで」を描き出し、第二部は「鈴木駒子の生き方」へと軸足が移ってゆく。名字を次々と変え、自らの信じるところに従って生きる=アウトローの駒子の生態もまた特殊――なのだが、それでもどこか第一部があるゆえに、許容できてしまう。この駒子の存在を「神」に置き換えることで、この物語が理解できるようにも思える。ただ、その場合、後半に作家デビューしてからの展開、さらに真田という教師から日常を教わる展開は、地上に降りた神が人間へと変化していく様とでも受け取れば良いのか。
 別の場所で作者自身が書いていたと思うのだが、作者はこの作品に対して自らの持つ様々な情報を絞り出し、後半部は受け取っては吐き出しといった書き方をしていたようだ。そのせいもあろうが、高校卒業くらいのタイミングを境に、前半部と後半部で物語の盛り上がりが極端に異なっているようにみえる。(はっきり言うと面白さでは圧倒的に前半が上)。後半は、むしろ異様な子供~青春時代を送った主人公が、決して普通にはなれない自分と、いわゆる世の中の常識とを嫌々ながらすりあわせることを試みる、そういった物語にもみえるのだ。
 題名にファミリーという言葉があり、思い出したようにポートレイトのエピソードが挿入される。ただ、題名で繋がっている「ファミリーポートレイト」、作品のテーマを考えるに、どこか分割されているようにみえる。

 作中で、ありとあらゆる物語、文学に耽溺する駒子は、どこか作者自身とも重なっているのだろう。皆川博子の自伝的作品でもこういった活字中毒の女の子がしばしば登場する。ひとつふたつの物語ならば、才能がなくとも書くことができるのかもしれないが、一冊の本にこれだけのアイデアを贅沢に詰め込んで、まだまだそれでも書き足りないというような作者の雰囲気を感じさせる。圧倒的にして多数の物語を小さな身体の内部に持つ。決して自伝ではないのに、どこか桜庭一樹自身が伝わってくるような、そんな作品。
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こんな評価をお見受けして、なんだか他人事じゃなく思う。
桜庭一樹さんが気になる作家さんになりそう。。。(^_^;)
ちなみにまだ読んでません~。

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【2012/11/30 00:43 】 | 読書感想 | 有り難いご意見(0)
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